高松市のベンチャーが、トップランナーであり続ける理由 ウェブシステムテクノロジー株式会社 取締役 副社長 中本和彦 氏

  ウェブシステムテクノロジー株式会社は、香川県高松市の郊外にあるソリューション・ベンダーだが、唯一無二の強みを持っているため、日本全国から引き合いがある。その強みとは「先を見通す力」だ。なぜ、WSTは地方にありながら、トップランナーであり続けられるのか。同社取締役副社長、中本和彦氏に話を聞いた。

ウェブシステムテクノロジー株式会社 取締役 副社長 中本和彦氏。

他社の追随を許さない高松市のトップランナー

 ウェブシステムテクノロジー株式会社(以下WST)のメイン業務は、ノーツマイグレーションソリューション(Notes Migration Solution)のサービス提供だ。IBMのノーツは、企業内での情報共有基盤、いわゆるグループウェアとして90年代から2000年代にかけ、標準とも言える地位を築いてきた。しかし、ノーツは1989年にクライアント・サーバ型グループウェアとして登場したため、インターネット(WWW)にネイティブに対応しているわけではなく、アドオンに頼らざるを得ない。さすがに25年も経つと、無理が出てきているのだ。サポート切れ、利用負荷の増大などに悩む企業も増えている。

そこで、新たにクラウドに対応しているグループウェア・SharePointへの移行を考える企業が多くなってきているが、過去のノーツ資産をSharePointに移行するのが難しい。WSTは、ノーツとSharePoint両方のノウハウを持っているため、この資産の分析サービスからデータベース移行まで、ノーツユーザーをサポートしている。

「現在では、同じマイグレーションをサポートする企業はいくつか登場してきているようです。でも、私たちはかなり早くからこの事業を行ってきたので、蓄積されたノウハウがあります。この蓄積は、他社もなかなか追いつけないのではないかと自負しています」

ウェブシステムテクノロジー株式会社 取締役 副社長 中本和彦氏。

ウェブシステムテクノロジー株式会社 取締役 副社長 中本和彦氏。
本社はあくまで高松。しかし、地元企業であっても本社が東京にあることが多く、打ち合わせなどの効率を考えて東京オフィスを開設した。

W-ZERO3を見て、未来を見通した「先見の明」

  WSTには東京オフィスもある。SharePointに関わる開発を行っているため、マイクロソフトと密に連携する必要があり、またクライアント企業の多くも東京に本社があるため、効率性を考え拠点を設けた。しかし、あくまで本社は高松市。なぜ高松なのか?

「簡単なことです。私と社長の岸本俊彦が高松市出身だからです(笑)」

2人は起業する前に、高松のシステム開発系の企業に勤めていた。そこでの仕事はノーツ関連のシステム開発だった。つまり、元々ノーツのエキスパートだった。その2人の人生を大きく変えることになったのが、ウィルコム(現ワイモバイル)の携帯情報端末・W-ZERO3だった。今日のスマートフォンの先駆けだ。

「当時はスマートフォンという言葉がなかったので、スマートクライアントと呼んでいました。でも、見た瞬間に、ビジネスパーソンがこれを当たり前に使う時代がすぐにやってくると感じました」

しかし、問題はシステム側だった。ノーツでも無理にスマートクライアント(スマートフォン)に対応させることは不可能ではないが、現実的ではない。これは、ノーツの次世代プラットフォームを探すべきなのではないか。そこで辿りついたのが、オンプレミスからクラウドまで、柔軟な運用ができるマイクロソフトのSharePointだった。

「当時は英語版しかなかったのものですから、懸命に英語情報を読んで、業務の傍らで機能検証を行う毎日でした」

2人は会議でこれからのビジネス展開について提案した。これからはWEBの技術が中心になり、さまざまなソリューションが展開されてく。我々もそこにリソースを投資していくべきだ。__しかし上司の答えはノーだった。理由はよくわからない。「ノーツで十分ビジネスになっている」「投資に見合うだけの売り上げが見込めるのか?」そういったありがちな理由なのだろう。

やりたい仕事ができずに鬱屈した中本氏がふらりと本屋に入ってみると、『1円で会社をつくる本』という背表紙が目に飛び込んできた。当時、株式会社の最低資本金制度が規制緩和され、資本金1円で起業することがブームになっていたのだ。

「その本を読んで、自分たちの会社をつくることにしました。もちろん、業務はノーツマイグレーション、SharePointのシステム構築です。他人の出資もあてにせず、自分たちのお金で起業しました。資本金は1円で済みましたけど、会社をつくるにはその他にもいろいろお金がかかるということをそのとき知りました(笑)」

WSTはマイクロソフトのパートナー企業となっていて、技術面、ビジネス面で提携している。

東京オフィスを開設したもう1つの狙いは、マイクロソフトとの連携を深めること。
WSTはマイクロソフトのパートナー企業となっていて、技術面、ビジネス面で提携している。

日本企業はボトムアップでは変われない

 2人がSharePointの開発をやろうと決めたときは、SharePoint 2003。このときはまだ機能が整っておらず、ノーツからの移行には相当な苦労を伴ったと言う。起業をしたときに入手した次バージョンのβ2版を見て、「これだったらなんとかなる」とようやく確信できたそうだ。SharePointが日本で広く認知されるようになるのは、SharePoint 2007。その間、ノウハウをしっかりと蓄積したWSTは、ノーツマイグレーション、SharePointに関しては、追従者を2周も3周も周回遅れにしていた。

「起業してから一番怖かったのが大手ベンダーの動きです。大手が100人ぐらいのSharePoint部隊をつくって追い上げてきたら、私たちは簡単に吹き飛んでしまいます。そうならないように、必死になってノウハウを貯めこんでいきました」

しかし、幸いなことに、懸念するような大手ベンダーの動きはなかった。結果として現在、ブルーオーシャンを快速艇で駆け抜けることになり、追従を許さない、唯一無二のベンチャーとして輝き続けている。

「大手ベンダーのエンジニアたちの中には、私たちと同じように、SharePointやスマートフォンに注目していた人はたくさんいたはずだと思います。でも、私たちが勤めていた企業がそうであったように、日本の企業は、現場からボトムアップで変わっていくことはほとんどありません。トップが決断してくれないと変われない体質をもっているのです」

クラウドに対する理解度が追い風に

 さらに追い風になっているのが、クラウドサービスに対する企業の理解度が上がってきたことだ。企業のクラウドに対するイメージも「安全性、可動保証時間に対する漠然とした不安」から、「利用することを前提とした具体的な課題の解決」になっていると言う。

「もう、“クラウドください”、つまり内容はわからないけど、買っておけというような感覚のクライアント企業は存在しません。焦点は、自社のポリシーに合わせたクラウド運用をどのようにすれば実現できるのかということに当てられています」

例えば、私たち消費者のようにスマートフォンからクラウドサービスを利用する場合、物理的なクラウドサーバがどこにあるかはまったく意識する必要はない。しかし、企業の中には物理ロケーションを気にするところもある。

「さまざまな理由がありますが、例えば公的機関の場合には、万が一海外でのサイバーテロが発生した場合でも運用し続けられるのか、ということを気にされるクライアントもいらっしゃいます」。マイクロソフトも、すでにこのような要望に対応し、東日本、西日本という2つのリージョンを設定し、それぞれ国内にクラウドサーバ(データセンター)を設置するという施策を行っている。

企業の中で広がるイノベーション発想

クライアント企業の中で、クラウドへの移行案件は、情報システム部門から上がってくることが以前は多かった。クラウドを利用することで、情報システム部門の負担が大きく軽減できるからだ。しかし、今では情報部門以外からクラウド利用の要望があり、WSTに相談されるケースも増えているという。

「ワーキングスタイルを変えたいと考えて、システム以外の部門からの提案が上がってくるケースが増えています」

例えば、保険会社の営業員がタブレットを持って客先で支払いシミュレーションをして、見積書作成までやりたい。飲料販売会社が自販機を巡回するときに、報告をその場でリアルタイムで行いたいなどだ。このようなことができるかどうか技術的な知識は持っていないが、「こういうことできる?」とWSTに逆提案をしてくるケースが増えている。

これは間違いなくスマートフォンが生活の中に普及したことが影響しているだろう。生活の中では誰もがスマートフォンを使い、クラウドサービスを利用している。「業務でも同じことができるはずだよな」と誰もが気がつける環境になっている。

WSTでは、「初めてのクラウド」のようなマンガつきのパンフレットを持って営業に回るなどということはしていない。引き合いがあった時点で、先方はすでに明確な課題を持っていて、実現したいワークスタイルを思い描いている。WSTはそれを技術レベルに落とし込み、必要な開発を行うというレベルの高い理想的な仕事ができるようになっているのだ。

それが可能になったのは、いち早く未来の姿を察知し、起業するという行動を起こし、トップランナーであり続けたからだ。「日本はイノベーティブなベンチャーが生まれづらい環境だ」と言う人は多いが、本当にそうだろうか。WSTは、日本ならではのベンチャー企業として、今日も高松市で開発を続けている。

ウェブシステムテクノロジーのホームページ

全国レベルでノーツデータベースの移行に道筋を立てられない企業は多いと聞く。
ウェブシステムテクノロジーのホームページにはケーススタディのほか、SharePointの業務活用事例などを紹介している
http://www.websystem-tec.jp