山下氏（以下、敬称略）　STEAMゼミの審査員へのご協力ありがとうございました。生徒たちの学びの機会を少しでも提供でき、当社としてもありがたく思っています。STEAMゼミで発表されたプレゼンテーションはどれも生徒の目線だけではなく教師や企業など、多角的な立ち位置から課題を取り上げて、その解決に向けた方策について議論を重ねてアイデアを出し合い、深掘りして自分たちなりの回答を導き出していた姿勢に感銘を受けました。今後の学校教育はどうあるべきかについて、生徒たちが考えたアイデアの中にもたくさんのヒントがあるのだと確信しました。

GIGAスクール構想によって全国の学校に一人一台のPCが整備され、学校教育のICT化を推進するための基盤が実現されました。今後はこの基盤を生かして生徒の学習効果を高める取り組みが必要となりますが、インテルさまと日本マイクロソフトさまではそれぞれどのような取り組みを進められていますか。

高橋氏（以下、敬称略）　インテルでは30年以上前から学校に生徒一人一台のPCを整備することを提唱し続けてきました。ようやく日本でもそれが実現されうれしく思っています。

インテルは半導体メーカーとしてPCメーカーを支援するとともに、学校でのパソコンの効果的な活用の支援にも力を入れています。まず教育の場でICTを活用して生徒の学習効果を高めるには、教員のデジタルリテラシーの向上が不可欠です。そこでインテルでは教員向けの「Intel® Skills for Innovation」という授業コンテンツと研修プログラムからなるフレームワークを無償で提供しています。

Intel® Skills for Innovationは世界中で提供しており、子どもたちに将来必要とされるスキルを身に付けるための豊富なコンテンツと、STEAM教育を教育現場で推進するための研修プログラムを蓄積しています。今後は日本に適したコンテンツと研修プログラムを厳選して日本語で提供していく予定です。

中井氏（以下、敬称略）　マイクロソフトもIT業界の中で先陣を切って学校教育への取り組みを始めました。日本でも拠点を開設して以来、30年以上にわたって一人一台のPCの整備を提唱し続けてきましたが、なかなか実現されませんでした。そのため海外で展開している学校教育向けの豊富なプログラムを日本で展開することができず、ジレンマに陥っていました。

ところがコロナ禍での対応策の一つとしてGIGAスクール構想が前倒しで実施されたことで、日本でも一人一台のPCが一気に整備されました。今後はこれまで世界の学校教育の現場で培ってきた経験やノウハウを生かした豊富なソリューションやプログラムを、日本の学校教育の現場にも提供していきます。

マイクロソフトが提供する学校教育向けのソリューションやプログラムは、いかに生徒がICTを活用して自身の可能性を高めていけるかに主眼を置いて開発しており、学習効果を重視して提供しています。例えばAIの機能を利用して音読の授業を支援する、「Teams for Education」で利用できる「Reading Coach」というアプリケーションがあり、大変ご好評いただいています。

これは生徒がパソコンの前で音読の課題を読み上げると、AIの音声認識機能で発音や朗読の正確さを判断し、間違った単語や文章を指摘してその箇所の音読を反復練習させるというものです。またAIの画像認識機能により生徒一人ひとりを識別できるため、大勢の生徒に対して同じ音読の課題を同時に指導できます。

この音読を指導するTeamsのアプリケーションは世界中で提供しており、日本では英語の音読学習にも使われています。今後はこの仕組みをプレゼンテーションや数学の数式、情報活用の指導にも広げていく予定です。

山下　一人一台のPCが整備されたことで全ての生徒がICTに触れることができる環境が実現されました。しかしテクノロジーは常に進歩しており、最新のテクノロジーについて生徒に教えるSTEAM教育も推進しなければならないと考えています。STEAM教育を通じた生徒が最新テクノロジーに触れる機会を提供することについて、それぞれどのような取り組みを進めていますか。

高橋　現在の日本では最新テクノロジーについて学ぶのは大学に入ってからです。しかし世界経済フォーラム年次総会2023（ダボス会議）において今後はAI人材が増えると指摘された通り、将来は最新テクノロジーを利用する職業が増えることが予想されます。そのため初等教育から最新テクノロジーに触れ、実課題の解決に活用するという、将来社会人になったときに社会から求められるスキルセットを習得しておく必要があると思います。

多くの学校では一人一台のパソコンが整備されたことで、従来のコンピューター教室が使われなくなってきています。この使われなくなったコンピューター教室を活用してSTEAM教育を推進していくインテルの取り組みが「STEAM Lab」です。インテルではSTEAM Labに限らず、AIやDXなど四つのテーマにおいて最新テクノロジーに触れて習得する機会を提供する「インテル・デジタルラボ構想」を展開しています。

STEAM Labでは高性能なPCや3Dプリンターなどの最新の機材、そして3D CADソフトや動画制作ソフトなどの業務の現場で利用されている高度なアプリケーションをコンピューター教室に導入して、児童・生徒の創造力を最大限発揮できる環境をDISさまとともに現在18校に提供しています。

中井　これからの社会においてデジタルテクノロジーが使われなくなることはないでしょう。新しいテクノロジーを使いこなすスキルを身に付けることによって、もっと深く学習したい、もっと良いものを作りたいといった生徒の好奇心や可能性を具体的な形で体験できるようになるとともに、今までできなかったことができるようになる、課題を解決してより良い生活ができるようになるなど、より良い社会を実現するための貢献もできるようになり、未来に備えるスキルも身に付けられます。

例えば社会で広く利用されているWindows 11やMicrosoft 365を小学生のころから使い続けることによって、これらを使いこなすスキルがおのずと身に付き、社会に出てからも同じICT環境を自在に活用して非常に生産性の高い人材として活躍できます。
こうした観点からも生徒ができるだけ早く最新のテクノロジーを体験できるよう、全国の学校にSTEAM教育を浸透させるべきです。

マイクロソフトはSTEAM教育の支援プログラムの一つとして「Hacking STEM」を提供しています。Hacking STEMはSTEAM教育の学習効果の向上を図るとともに、実施にかかる費用を抑えることにも役立ちます。ぜひHacking STEMも活用していただき、より多くの学校でSTEAM教育が実施されることを期待しています。

またマイクロソフトでは未来に備える能力を「Future-ready skills」として六つの項目を定義し、それぞれの学習の達成度を測定するルーブリックを公開しています。

山下　昨今は「社会に開かれた教育過程」と言われており、社会における解答のないさまざまな課題に対応していく資質や能力の育成に向けてSTEAM教育は非常に重要であると思います。ただし新しい取り組みを多忙な先生方だけにお任せするのではなく、産学官の連携によって企業がお手伝いできることもたくさんあり、特にICTに関わる我々の業界も学校教育の現場に対して継続的に支援する必要であると考えています。

当社は全国に約90拠点の営業網を持つ地域密着のディストリビューターという役割を生かして、パートナー企業の皆さまと教育現場のICT化推進に貢献する中で、全国での事例を広めていくようなお手伝いもしたいと考えています。

日経STEAMプロジェクトへ参画しているのはICTを通じて多様な能力を育成できる環境とはどのようなものかを、生徒の皆さんと未来の学びをともに考えながら、その可能性を探るためです。実はSTEAM Labにメンター役で参加している当社の若手社員にも良い影響が出ています。このような活動は継続性も大切な要素ですので、ICTを通じて将来を担う人材の育成や社会的課題の解決の一助となるように、これからも引き続き推進していきます。

山下　学校教育でのICT活用の進歩に伴って、現場ではよりレベルの高いICT環境が求められるようになると考えられます。次のGIGAスクール構想の実施に向けて、それぞれどのように貢献したいとお考えですか。

中井　ChatGPTがわずかな期間で世界中に浸透したように、デジタルテクノロジーの進歩は目覚ましく、その影響によって環境が大きく変化しています。予測できない未来の変化に備えて最新のテクノロジーが採用されたICT環境を生徒たちに提供し、できるだけ長く使っていただきたですね。

マイクロソフトとしては最新のテクノロジーが搭載されたPCでWindows 11とMicrosoft 365 Educationエディションを活用して、生徒たちがもっとたくさんのことを学べるようにしたいと考えています。

高橋　CPUが進化していく中でそれが搭載されたPCの性能が向上するだけではなく、AIなどの最新テクノロジーを生かした使い方ができる環境も実現できます。例えば今後インテルが提供するCPUにはAIを活用したアプリケーションがより高速に動作し、快適に利用できる仕組みが搭載される予定です。

CPUもOSも、これを搭載するPCも常に進化しています。その時点で最新のテクノロジーが採用されたPCを使って学んでいただきたいと考えています。

山下　教育現場における切れ目のないGIGAスクール構想の実現は端末の整備とともに活用がどれだけ進むかが大切であり、文具と同様に普段使いのツールになるべきです。当社でも継続した研修等を通じて、活用度向上に向けた支援を実施していきます。

さらに一人一台のPCが整備されて以降、廃止や転用が検討されているコンピューター教室でSTEAM教育やアクティブラーニングを実施することで、GIGAスクール構想で整備された端末では対応できない先進テクノロジーを学ぶ環境の提供にも注力していきます。

現在は昨年からの実証研究の段階ではありますが、ハイエンドPCを生かした実践的な事例がすでに多く出てきています。またインテルさまと展開しているSTEAM Labは主体的、対話的に学ぶアクティブラーニング環境であるため、臨時の職員会議の実施や地域交流の場としての活用など副次的な効果も見込まれています。