[ DISわぁるど in とちぎ宇都宮 ] セミナー・パネルディスカッションレポート

【特別講演】
AI・IoTが創り出すデジタルトランスフォーメーション

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト 西脇資哲氏

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 エバンジェリスト
西脇資哲氏

デジタルトランスフォーメーション推進部門が誕生

 デジタルトランスフォーメーションという言葉の認知が広がり、多くの企業が関心を示し、実際に取り組みを始めている企業も少なくない。デジタルトランスフォーメーションの実現にはICTの活用が不可欠だが、従来のIT活用とは異なる動きがデジタルトランスフォーメーションでは起こっていると日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト 西脇資哲氏は指摘する。

 西脇氏は情報システム部門や情報システム子会社を持つ企業が珍しくないが、現在ではデジタルトランスフォーメーションの推進部門を持つ企業も現れていると説明。

 そしてデジタルトランスフォーメーションは情報システム部門や情報システム会社の業務範囲に収まらなくなっていると指摘する。デジタルトランスフォーメーションには膨大なデータが必要だが情報システム部門はデータを安全に長期間安定して使っていくために管理することが役割だ。しかしデジタルトランスフォーメーションでは膨大なデータを活用しなければならず、そのためにはデータを利用する事業部門や経営層と、情報システム部門を連携させてデジタルトランスフォーメーションを推進する部門が必要になっているからだと説明する。

 日本マイクロソフトでは企業がデジタルトランスフォーメーションを推進するために四つの象限を挙げている。

 まず顧客の体験を価値向上するために顧客とつながること、そのために社員の能力を最大化すること、それを支える業務の仕組みを最適化すること、これらの取り組みの結果から製品やサービスを変革し、新たなビジネスを生み出すことだ。

 西脇氏は製品を変革してビジネスを創出することが最も難しいが、これを目指さないと会社が変わらないと強調する。そして若い人のアイデアや顧客のデータ、工場などさまざまな資産を活用してデジタルトランスフォーメーションを推進していかなければならないと説明した。

AIが働き方を可視化してアドバイスする

 少子高齢化が進む中、労働力が減少して専門のスキルを持つ人材の確保が難しくなっており、企業では政府も推進している「働き方改革」への取り組みが活発化している。西脇氏が四つの象限の中で示した「社員にパワーを」への取り組みがそれにあたる。

 西脇氏はAIで自身および部下やメンバーの働き方を可視化して生産性を向上させるための具体的な取り組みについてOffice 365の活用を説明した。

 Office 365でメールやスケジュール、作業を記録・管理することで、「MyAnalytics」を使って自身の仕事の傾向をさまざまな切り口で可視化できる。

 誰とどのくらいの時間面談したりメールをしたりしているのか、メールを受信してから返信までの時間や返信しなかったメールの率など、期間や人物などの単位で可視化できる。可視化することで無駄な会議を減らすなど、アドバイスができるようになる。

 西脇氏は働き方改革は次のステップに進んでいると強調し、以前はスマートフォンやクラウドを活用しようというテーマだったが、今は時間の使い方をAIで分析してアドバイスすることで具体的な改善をすることが今すぐにできる環境が整っていると説明した。

モノで活用されているIoTの最新事例

 AIの活用によって働き方改革が進展しているが、IoTはまだモノに執着していると西脇氏は指摘し、モノから集めたデータを分析する、どのようなデータを集めるかがテーマとなっているという。

 ただし成果も得られている。その具体例としていくつかの事例を紹介した。まずロンドンの地下鉄でのIoT活用例だ。駅をはじめ地下鉄内で使われているさまざまな設備をできるだけ長期間、安全に使うためにカメラやセンサーを設置して監視しているという。

 例えばエスカレーターのモーター音やモーターの回転数、振動のデータを収集して分析することで故障が予知できるという。

 世界最大級のエレベーターのモーターメーカーではモーターの稼働状況を遠隔監視して故障予測をしている。従来はモーターが壊れたら熟練した職人を派遣して後手対応していた。また熟練した職人の経験や勘に頼って部品を交換していた。

 トラック運会社では車両のエンジンの回転数、スピード、ガソリン量、積み荷などをセンターで遠隔集中管理して、ドライバーは運転するだけという環境を実現して効率化している。

IoTはヒトにも広がりAIの精度も向上

 西脇氏は現在のIoTはモノに執着していると指摘しながらも、ヒトや動物への活用も広がっているとも話した。例えば牛の足にセンサーを取り付けて、牛が歩く歩数を遠隔監視する。歩数が急増すると、それは発情期を迎えたことを意味し、発情期を迎えたオスとメスを組み合わせることで効率よく繁殖する仕組みが実際に活用されていると説明した。

 このほかヒトへの活用では在宅医療、遠隔医療の事例があると紹介した。アメリカのニューハンピュシャー ダートマス大学医療センターでは患者の心拍や呼吸、血圧などの状態を遠隔監視するとともに、症状などのデータを組み合わせて処置の優先順位を選別するトリアージュのシステムを導入して遠隔医療・在宅医療を実現している。

 西脇氏はヒトの生命がかかっている医療にAIを活用しても大丈夫なのかと思われるかもしれないが、医師は学んだこと、経験したこと、忘れていないことを利用して治療する。しかしAIは無限のデータを功利的かつ有効に利用できると、その有効性を説明した。

 そして現在のAIの制度についても言及し、ある実験の結果を紹介した。それは7月と8月しか営業しない海の家の売り上げの日次予測だ。実際の売り上げとAIが予測した売り上げがほぼ同じだった。

 このほかアメリカのマクドナルドのドライブスルーで試験導入されている音声認識システムでは、来店客の複雑な注文を瞬時に認識して伝票が作成され、厨房が画面を見ながら調理し、会計も行われるという事例だ。

 また画像認識についても会場で写真を学習させてその場で認識させるデモを披露した。さらにヒトを介さず機械だけで完結するボットチャット(ロボットチャット)による会議室の予約や、リアルタイムの機械翻訳、PowerPointの多言語翻訳なども実演された。

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