[ DIS Innovation Forum ] パネルディスカッションレポート 第2回

DXが引き起こすケミカル・リアクション
-地域スーパーメンターと
カリスマエバンジェリストの対談-

株式会社メロディ・インターナショナル 代表取締役社長 尾形優子氏

株式会社メロディ・インターナショナル 代表取締役社長 尾形優子氏

株式会社電脳交通 代表取締役 近藤洋祐氏

株式会社電脳交通 代表取締役 近藤洋祐氏

島前高校魅力化プロジェクト 教育ICTディレクター 大辻雄介氏

島前高校魅力化プロジェクト 教育ICTディレクター 大辻雄介氏

モデレーターを務めた日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 業務執行役員 西脇資哲氏

モデレーターを務めた日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 業務執行役員 西脇資哲氏

最新テクノロジーと何かの組み合わせ

 モデレーターを務めた日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 業務執行役員 西脇資哲氏は冒頭、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるイノベーションを引き起こす要素の一つであるドローンについて触れた。西脇氏は2017年5月に設立されたジャパンドローンファンドのメンバーの一人であり、同ファンドは10億円の資金を調達してアジア最大のドローンファンドとなっているという。

 西脇氏がドローンに注目する理由としてドローンは単体でイノベーションを引き起こすのではなく、IoTやAI、VRと組み合わせてイノベーションを引き起こすと解説。同様にIoTもAIも別のテクノロジーとの組み合わせでイノベーションを引き起こすと続けた。

 このような前置きの後で最新テクノロジーと何かの組み合わせで地域課題の解決に取り組むメロディ・インターナショナルの尾形氏と電脳交通の近藤氏を紹介し、両氏が自身の取り組みを紹介した。

地域課題の解決に取り組む実例 -妊産婦の医療サービス-

 まずメロディ・インターナショナルの尾形氏は岩手県での地域への取り組みを紹介した。岩手県遠野市では2004年から産科医が不在となり、妊産婦は車で1時間半かかる病院まで通院しなければならないという地域課題がある。

 そこで2006年から助産院に遠隔健診システムを導入して、妊産婦と医師とのリアルタイムのコミュニケーションを実現している。それにより、最も死のリスクが高い妊娠22週から生後満7日未満までの周産期のリスクを低減している。

 同社は、そのシステムを更に普及させるべく、超音波胎児心拍計と陣痛計、通信機能を備えたよりコンパクトで軽量なセンサーデバイスを開発。デバイスから収集したデータをデータセンターに保管しPCやスマートフォンからモニタリングすることで、死産や出生後のリスクを低減するシステムだ。

 現在は実証実験中だが、今後は国内だけではなく医師が不足している東南アジアやアフリカなど海外にも展開したいと意気込む。

 尾形氏の取り組みについて西脇氏はテクノロジーの進展によってデバイスが小型化でき、ワイヤレスでネットワークが利用できるなど便利だが、一方で妊産婦がスマートフォン以外に小型とはいえ専用デバイスを携帯しなければならず、充電も気にしなければならないという新たな課題も出てくる。こうした課題をさらに新しいテクノロジーで解決して、より便利なシステムを実現するべきだと意見を述べた。

地域課題の解決に取り組む実例 -タクシーコールセンター-

 続いて徳島市のタクシー会社、吉野川タクシーの代表取締役を務める近藤氏が設立したベンチャー企業「電脳交通」のクラウド型タクシーコールセンターサービスが紹介された。

 地方のタクシー業界は経営が厳しく、設備投資や固定費の負担が経営を圧迫する。地方では電話による配車依頼が常識であり、オフィスに電話の担当者が常駐する必要があるが、現実はドライバーが兼務しており、ドライバーが乗車中は電話に出ることができず顧客を逃してしまう。

 しかもドライバーの高齢化が進んでおり、タクシードライバーの年齢は全国平均が58歳、徳島では60歳でドライバーの負担を減らす必要もある。

 そこでクラウドを活用して共同利用できるコールセンターを低コストで構築しサービス提供しており、電話を受ける場所や人員、コールセンターの設備や体制を持たなくても顧客を獲得でき、設備投資が不要となるなど地方のタクシー会社の存続と地域の公共交通網の維持に貢献している。

 近藤氏の取り組みについて西脇氏は中国の自転車のライドシェアサービス「モバイク」を紹介した。モバイクはスマートフォンでサービス提供されている自転車のある場所を探し、その自転車に乗ってどこにでも乗り捨てていいというサービスだ。

 アイデアもさることながら利用者の両状況をリアルタイムで収集して利用傾向を分析し、AIを使って需要のある場所を推定して乗り捨てられた自転車を移動するというユニークな仕組みを運用しているという。この仕組みを応用すればタクシーの配車の効率化と商機獲得につながるだろうとコメントした。

地域課題の解決に取り組む実例 -離島での遠隔授業-

 島根県の離島、中ノ島の海士町にある島根県立隠岐島前高等学校で魅力化プロジェクトに取り組む大辻氏は現在実践されている教育のICT活用について、タブレットPC、Webドリル、そして遠隔授業と映像講義を挙げ、教育におけるICT活用は効率化になっていないと問題を指摘した。

 その理由として教員の数を減らさないという要因を説明。遠隔授業・映像講義においては配信側にも受講側にも教員が必要だと例を挙げた。

 大辻氏が取り組む中学校での遠隔授業について、中学校は周辺の島の各地にあり塾に通うには定期便の内航船で島を移動しなければならない。しかし内航船は天気や波の状況によって欠航することが多く、塾に通えない生徒がいるため遠隔授業が必要だと説明した。

 現在の遠隔のコミュニケーションシステムでは相手が等身大に見えるソリューションなどがあり、テクノロジーが進化した恩恵で臨場感が高く違和感がない環境が作れる。ただし対面授業と比較した場合、まだまだ課題もある。しかし遠隔授業を行うメリットとデメリットを比較した場合、メリットのほうが大きいと説明した。

 そのメリットについて地方は教員の数が少なく例えば生徒が理系の大学に進学したくても物理の先生がいないため諦めなければならないこともある。遠隔授業ならば教育の機会や質を全国、さらにはグローバルで均質化と向上が図れ、環境が理由で学習できないという問題を解決できると説明した。

 また遠隔授業は病気などで学校に登校できない生徒にも平等に学習の機会を与えられる。仕事も同様にインターネットとデバイスがあればベッドでも業務はできる。オペレーションはどこにいてもできる時代になった。

 さらに効率化という観点からホームルームの時間を割いて出欠を確認しなくても、ペンや教室の時計をIoTデバイス化すれば自動的に出欠が確認できるほか、生徒の行動をリアルタイムで確認することも可能になる。しかし教室内のIoT化はまだこれからと語った。

 最後に今後の展望についてマイクロソフトのホロレンズを使って現実と映像を融合させた遠隔授業の効果を検証したいと意気込みを語った。

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