[ DIS Innovation Forum ] パネルディスカッションレポート 第4回

次世代マチづくり・マチ興しイノベーション
-DXファーストによるスマートシティ・地域創生-

インテル株式会社 執行役員 セールスチャネル事業本部長 井田晶也氏

インテル株式会社 執行役員 セールスチャネル事業本部長 井田晶也氏

合同会社シスコシステムズ 執行役員 最高技術責任者(CTO) 濱田義之氏

合同会社シスコシステムズ 執行役員 最高技術責任者(CTO) 濱田義之氏

株式会社タウンクリエーション 代表取締役 前 紅三子氏

株式会社タウンクリエーション 代表取締役 前 紅三子氏

公立大学法人広島市立大学 大学院 情報科学研究科 准教授 井上博之氏

公立大学法人広島市立大学 大学院 情報科学研究科 准教授 井上博之氏

モデレーターを務めた国立大学法人徳島大学 教授 副理事(広報・情報管理担当) 情報センター長 上田哲史氏

モデレーターを務めた国立大学法人徳島大学 教授 副理事(広報・情報管理担当) 情報センター長 上田哲史氏

一極集中の対局にあるものの価値が高まる

 地域創生の取り組み方についてモデレーターを務めた徳島大学の上田氏が発言した。上田氏は「多様な形態があるので他の地域での成功事例を適用しても必ずしも成功しない。そもそも大掛かりな取り組みをして何かを作ったり、興したりする必要があるのか」と問題提起をした。

 そして「ただし身近な課題の解決はどの地域でも共通の問題だ。そのアプローチでの街づくりとして、インターネットとそれを活用するさまざまなデバイスの活用がとても有効だ。例えばSkypeやWeb会議を使えば場所に拘束されないし、会議室に集合するなど同時である必要もなくなる。こうしたテクノロジーを活用すれば、一極集中の対局にあるものの価値が高まる。つまり地方でのサテライトオフィスが有効に機能し、地域の活性化の道筋が出来上がる」と強調した。

 徳島県はケーブルテレビの世帯普及率が88.6%と4年連続で全国1位となっている。このインフラによってインターネットも利用しやすく、県外企業がサテライトオフィスを多数開設していることは有名だ。

 しかし上田氏が力を入れているのはサテライトオフィスではなく、徳島大学が取り組む農業に関する生産、加工、流通でIoTを活用するというテーマだ。徳島大学では生物資源産業学部を新設した。この学部は全国初となる。

 生物資源産業学部では農林水産業などの第一次産業と、製造業などの第二次産業、そして商業・サービスなどの第三次産業を一体化させて農業の可能性を広げることで地方創生に貢献すると説明した。

 具体的には農産物などの生物資源について、品種改良から人工栽培、機能食品の開発、植物由来の素材の開発、医薬品の開発等多岐にわたる幅広いビジネスの可能性を拓いていく。

 すでに産官学・部局間連携による地方創生事業としてロボットやセンサーによるモニタリングシステムを活用した自動栽培プロジェクトなどを実施しており、農作業者の負担軽減と生産コストの低減や化石燃料消費量削減によるCO2削減や燃料コスト低減、LEDを活用した栽培設備による衛生・鮮度管理で安心・安全な農産物の栽培などをテーマに取り組みを進めている。

 また産官学連携による農林水産食品産業の成長産業化と人材育成を目指して、徳島大学生物資源産業学部を中心に農林水産分野プラットフォームの構築にも取り組んでいる。

地域でのIoT活用の事例と安全性の課題

 続いて地域でのIoTの活用や安全性についてタウンクリエーションの前氏と広島市立大学の井上氏が説明をした。まず前氏はタウンクリエーションが提供するNFCを活用したクラウド型バスロケーションシステム「BUSit」(バスイット)のサービス内容を説明した。

 BUSitはバスにAndroid搭載端末を車載して、その端末からクラウドに位置情報を送信しバス停で到着を待つ人のスマートフォンから到着情報が確認できる仕組みだ。同時にバス会社はリアルタイムで運行状況が把握できるほか、バス会社からバスのドライバーに運行指示を出すこともできる。

 またバス停をバスが通過する時間を記録することで時間別に道路の混雑状況を把握できる。このデータをダイヤ編成の参考にすることも可能だ。

 なお車載器にはスマートフォンタイプのほかにタブレットタイプ、ラグドタブレットタイプ(堅牢型)がラインアップする。

 現在BUSitは広島県を中心に埼玉県、山口県、愛媛県の合計18のバス会社で利用されており、案内対象となっているバス停の数は1万2,570カ所、路線数は約2,158となっている。

 続いてICT活用における脅威と安全について広島市立大学の井上氏は「IoTの普及によって利便性が高まる半面、IoT機器が外部につながるためリスクも高まる」と注意を喚起した。

 すでにマルウェアによって工場の生産設備が破壊された事例をはじめ、ネットワークカメラの脆弱性が攻撃されて、そこから社内のデータやシステムにアクセスされる危険性や、ネットワークにつながって自動運転を実現する自動車が乗っ取られる危険性などが紹介された。

 今後はIoTの活用とともにIoT機器への安全対策が必須であると強調し、今後はIoT機器への脅威事例を共有して脆弱性を把握したり対策を検討したりすること、IoT機器の設計開発にセキュリティガイドラインを策定してセキュアなシステムを設計・開発することが必要だと訴えた。しかしながら情報セキュリティには幅広い知識が必要となる。そのため人材の育成が必要だと強調した。

グローバル企業によるIoTソリューションの現場

 グローバルでIoTソリューションを提供しているインテルとシスコシステムズの事例も紹介された。まずインテルの井田氏は岡山県で地ビールの生産が伸びていることを説明して、その成長に貢献できる米国の事例を紹介した。

 米国では地ビールの売り上げが年間200億ドルの規模があるが、ビア樽1個当たりの廃棄率は10%から15%、在庫ミスやオーダーミスが20%、顧客が気に入っているビールが品切れの場合の消費量は3分の1に減少するなどのデータを示し、地ビールのビジネスに無駄と商機逸失があることを説明した。

 これらの問題に対して樽にセンサーを取り付けてリアルタイムで重要を計ることで売れ残りを把握して、ハッピーアワーやクーポンを発行することで賞味期限までに売り切り、廃棄を防止した事例を紹介した。これはほかの食品でも応用できる仕組みだろう。

 またセンサーから収集したデータはそのままクラウドに伝送するのではなく、いったんIoTゲートウェイに集めてからクラウドに伝送する仕組みを紹介。今後IoTが普及すると伝送されるデータの量が激増しネットワークを圧迫する恐れがあるとともに、現場で即座に利用したいデータを現場に近い場所で保管することでそうしたニーズに対応できると説明した。

 続いてシスコシステムズの濱田氏は同社のスマートシティへの取り組みについて京都でのプロジェクトを紹介した。京都ではスマートシティ基本計画に基づきコネクテッドツーリズム、コネクテッドヘルスケア、コネクテッドエデュケーション、スマートライティング、そのほか次世代交通や水資源管理、橋梁等インフラ監視などに取り組んでいる。

 その中から街灯をスマート化するスマートライティングが紹介された。街灯を点灯したり照度を変更したりするなどの操作を遠隔で行ったり、故障や電球切れを検知したり、ネットワークカメラで交通量を測定して街灯を設置する場所を検討したりするなどの取り組みが進められている。

 こうして構築したIoTサービスを提供するためのプラットフォームを活用して、さまざまな分野のデジタルサービスを複数の地域にサービス提供できるとアピールした。

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