日本マイクロソフトに聞く、教育ICTの現状と今後のゆくえ【前編】

 教育機関へのタブレット導入が本格化するなか、Windowsタブレットの存在感がいっそう増す方向に見えつつある。 モバイルファースト、クラウドファーストを軸に大きく舵を切った新しいWindowsの世界観は、教育ICTにどんな影響をもたらすのか。 マイクロソフトが考える教育ICTの現状と将来像を、日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター統括本部文教本部長 小野田哲也氏と、同部パートナーアライアンスマネージャー滝田裕三氏に話を聞いた。

日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター統括本部 文教本部 文教本部長の 小野田哲也 業務執行役員(左)と、同パートナーアライアンスマネージャーの 滝田裕三 氏(右)

今回の取材に応じていただいた 日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター統括本部 文教本部 文教本部長の 小野田哲也 業務執行役員(左)と、同パートナーアライアンスマネージャーの 滝田裕三 氏(右)

普通教室にWindowsタブレット。選ばれている主な4つの理由

“コンピュータ教室から、普通教室でいつでも使えるICT活用へ”

 教育現場にタブレットを導入する多くの教育機関はWindowsを選択する。その理由はどこにあるのか。日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター統括本部 文教本部パートナーアライアンスマネージャー滝田裕三氏は、下記4つを理由に挙げる。

日本マイクロソフトに聞く教育ICTの現状と今後のゆくえ

理由1)今まで作成した教材が使えること

 教員がこれまで校務用のWindowsパソコンで作成した自作教材を、そのまま活用できる。教育現場では、生徒の理解に合わせて教材の手直しが頻繁に発生するが、校務用パソコンからその操作が行えることは大きい。また、教員間、児童生徒と教員間とのデータ共有も容易であることがメリット。

理由2)デファクトスタンダードのOfficeを使いたい

 MS Word、Excel、PowerPointなどのOffice製品はビジネスや大学で広く使用されている。もはや、Officeを使えることはコンピュータを使う際の基本的なスキルとも言え、Windowsプラットフォームを選択するほうが将来、有効だと考える教育機関も多い。例えばA小学校では「児童が情報編集・発信を行うためにはOfficeの活用は不可欠」だと判断してMicrosoft Surfaceを導入した。

理由2)デファクトスタンダードのOfficeを使いたい

理由3)キーボード、マウス、ペン、入力の選択肢が豊富

 滝田氏は「キーボードやマウス、ペンなど、学習者が用途に合わせて入力方法を選べることが、Windowsタブレットの選択理由にある」と語る。WindowsタブレットならばUSBポートがあり、キーボードやマウスなど各種USBデバイスも利用しやすい。小学校では特に、タブレットペンが重要視されており、タブレットの画面に手をついたまま手書き入力ができるのがWindowsタブレットの魅力だと言う。

理由4)他のシステムとの連携がしやすい

 東京23区内のD教育委員会のように、電子黒板や校務システム、学習支援サービスなど、他のシステムやIT機器との連携が容易であることを評価して、Windowsタブレットを導入する教育機関も多い。学校のサーバに保管されているデータに各教室からアクセスしやすいのがメリットだ。

理由4)他のシステムとの連携がしやすい

普通教室でWindowsタブレット、その活用事例とは?

Windowsタブレットを導入する教育機関では、実際にどのように端末を活用しているのだろうか。 グループに1台、児童生徒に1人1台など端末導入台数によって活用範囲は異なるが、それぞれのタブレット活用事例を紹介しよう。

  • 普通教室にタブレットが数台(もしくは、教師がタブレットを活用)

 タブレット端末の台数が少ない教育機関では、教師がデジタル教科書や自作教材などを提示したり、生徒のノートを写真に撮影して電子黒板に映写するなど、一斉学習の“見せる”場面で活用する事例が多い。神奈川県のある高校では、英語の教師が自作したフラッシュカードを使うことでテンポよく提示ができるようになり、生徒の声もよく出るようになったという。出欠記録など校務システムと連携する事例もある。

  •  3〜4人のグループに1台のタブレット

 このパターンでは、協働学習の場面でタブレットを活用し写真や動画を使うことが多い。グループ内で先生が作った手本の動画を一緒に見たり、体育の授業で友達のフォームを撮影して意見交換をするなど、実技や演習の場面でタブレットを活かす。埼玉県のある中学校では、理科の実験の様子を動画で撮影し、実験のまとめにWordやPowerPointも使用する。滝田氏は「グループで使うと、子供の見たい部分を何度も再生したり、映像を手元で見ながら内容を確認できたりと、一斉学習の時よりも学習に参加する場面が多くなり主体的な態度が多く見られる」と話す。

  • 1人1台のタブレット

 個別学習や持ち帰り学習のシーンでタブレットを活用できるのが1人1台環境。前出のA小学校では、4、5年生を対象にSurfaceを1人1台環境で導入し個別の学習教材を活かす。また、栃木県のある高等学校においても1人1台を実施し、映像教材を用いた学習環境を構築している。自宅や通学時間、部活動の遠征先など、時間や場所に制約されず、いつでもどこでも学習可能な環境を提供できるのが1人1台のメリットだ。

普通教室に数台(先生がタブレットを活用)

教室にタブレット数台、もしくは教師のみ

グループに1台、タブレット

グループに1台のタブレット

完全一人1台、タブレット

1人1台のタブレット

1人1台のタブレット

日本マイクロソフトが教育機関向けにタブレット端末を導入するにあたっての手引き情報を公開している(https://www.microsoft.com/ja-jp/education/tablet/default.aspx)。ここには小中高大のWindowsタブレット事例も数多く掲載されている。また、Windows用の教育アプリの検索もできる。

1人1台のタブレット

Windowsタブレット導入から見えてきた効果と今後の課題

 滝田氏は教育現場におけるWindowsタブレットの導入効果について、「数値化しづらい部分ではあるが、2点ほど明らかになった部分がある」と話す。

 1つは、Windowsタブレットと個別学習支援システムを活用した基礎・基本の向上。特に算数では、個人の苦手な問題を自動的に出題するシステムを活用することで、学力の向上が見られた。下記のグラフは、DiTT(デジタル教科書教材協議会)の研究委託のもと、都内区立G小学校と日本マイクロソフトが協力して実施した学力調査の結果だ。白線はタブレット導入前(2012年9月)、黄線はタブレット導入後(2013年1月)を示している。

学力向上の実例:G 小学校

 タブレット導入前後を比較すれば、5年生の数量関係の項目以外でポイントがアップした。児童からもこのような学習支援システムを活用することについて「自分のペースで進められる」「どの学年からでも復習ができる」「得意なゲーム感覚で学習できる」など肯定的な意見が聞かれた。

 タブレット導入のもう1つの効果は、特別支援教育の領域だ。読みに困難のある児童に対して読み上げソフトを活用し、点数の向上が実証された。下記のグラフは、日本マイクロソフトが実施した「読みに困難のある児童の通常の学級でのデジタル教科書/教材の活用」結果。児童(2人)は“授業に対する意欲が上がった”“つかえずに読むことができるようになった”などの感想を述べている。さらに、デジタル化された試験を実施した際は、2人ともクラスの平均点近くまで点数が向上した。

学力向上の実例:DiTT実証研究プロジェクト(L)

Windowsクラスルーム協議会

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター統括本部文教本部長 小野田哲也氏は、普通教室におけるWindowsタブレットの活用について、「タブレットやOfficeを使えることがICT導入ではない」と話す。あくまでも教育機関におけるICTの導入には「何のためにタブレットを導入するのか」「校務システムまで含めたシステム全体像を描けているか」「継続的に利活用する仕組みがあるか」の3つのポイントが重要だと強調する。小野田氏は、この3点を実現していくためには、OS、タブレット、PC、デジタル教科書、教材、ソリューション企業など業界を越えた横の連携が欠かせないとし、日本マイクロソフトとしてはWindowsクラスルーム協議会(https://www.microsoft.com/ja-jp/education/wic-consortium/default.aspx)などを通して、Windowsのプラットフォームを総合的に進めていく考えだ。

Windowsクラスルーム協議会

後編では、日本マイクロソフトが目指す、今後の教育ICTの方向性を探る。

(DIS 教育ICT(初等・中等教育)ソリューション サイト 2016年3月15日掲載記事)

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