日本マイクロソフトに聞く、教育ICTの現状と今後のゆくえ【後編】

 教育機関へのタブレット導入が本格化するなか、Windowsタブレットの存在感がいっそう増す方向に見えつつある。モバイルファースト、クラウドファーストを軸に大きく舵を切った新しいWindowsの世界観は、教育ICTにどんな影響をもたらすのか。マイクロソフトが考える教育ICTの現状と将来像を、日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター統括本部文教本部長 小野田哲也氏と、同部パートナーアライアンスマネージャー滝田裕三氏に話を聞いた。

日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター統括本部文教本部文教本部長の小野田哲也 業務執行役員(左)と、同パートナーアライアンスマネージャーの滝田裕三氏(右)

今回の取材に応じていただいた日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター統括本部文教本部文教本部長の小野田哲也 業務執行役員(左)と、同パートナーアライアンスマネージャーの滝田裕三氏(右)

日本マイクロソフトが描く将来の社会とは?

 日本の教育機関で圧倒的なシェアを誇るWindowsパソコンやタブレット。日本マイクロソフトの教育分野における動向は、学校現場にも大きなインパクトを与えるだろう。同社は日本における教育ICTの将来像をどのように描いているのだろうか。日本マイクロソフト業務執行役員 パブリックセクター統括本部文教本部長 小野田哲也氏の話からは、「テクノロジーの進化」と「働き方の変化」、2つのキーワードが浮かびあがる。

 小野田氏は未来の社会について、モノのインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)が進むことで産業構造が大きく変化すると説明する。クラウドに保管されたビッグデータにいつでもアクセスし、シミュレーションやデータ解析などコンピュータのリソースを使う作業が日常的になる。このような社会では、与えられた仕事を正確に行うよりも、データを分析、整理して、新しい領域を創出したり、新しい価値を創り出すような行動がどの仕事にも求められるという。
 ゆえに、労働者の働き方も変化すると小野田氏は語る。今後、労働者の働き方は、トップダウンではなく協働型へ、シェア争いからニーズを生み出す方向へ、組織中心から人中心へ、という具合に、労働環境がどんどんシフトしていくというのだ(下記写真参照)。小野田氏は、「自分のライフワークを持ち、それを元にいろいろな会社で仕事をする働き方も可能になるだろう。昔だったら30年で1つのキャリアだが、これからは40歳までに10種類以上の仕事を経験しているのが当たり前の時代になる」と予測している。

すでに始まっている社会における働き方の変化

 今の子どもたちが生きる未来の社会は、このような働き方や感性が求められる時代だ。よって、社会に適合できる人材を育てるためには、日本の教育も変わっていかなければならない。小野田氏は、子供たちに将来必要な力として「その場の状況に応じて判断できる能力や、答えのない課題に対して他者と協力しながら解決していく能力が重要だ」と語る。

620万個の新しい職業が創出される未来。STEM教育の充実が課題

 マイクロソフトがグローバルで力を注くのがSTEM教育の分野だ。STEMとは、理数科目のことで、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもの。多くの産業でIT化が進んだことで、世界的にIT人材不足が深刻化しているが、アメリカ労働統計局の資料では、今後2022年までに新しい仕事が620万個も創出され、その多くがコンピュータとエンジニアの分野だという。にもかかわらず、理数系に進学する学生は世界的に少ない傾向にある。産業界が求める理数系人材と、教育機関から輩出される人材との間にギャップが生じているのだ。

教育機関から輩出される人材との間にギャップ

 このような背景から、世界各国の教育現場ではSTEM教育の強化が課題になっている。小野田氏は、「日本の産業界でも同様の課題を抱えており、日本マイクロソフトとしてもIT人材の育成は重要だと考えている」と語る。とはいえ、コーディングができるプログラマーを増やせば良いという話ではない。小野田氏は、「データを解析したり、処理したりするスキルも重要で、理数系の人材を多く輩出することに取り組むことが重要だ」と言う。金融、農業、製造業、どの産業をとってもIT人材がいなければ成り立たないフェーズに日本もきている。理数系人材の育成に今から取り組まなければ、国力の低下に繋がりかねないと危機感をみせる。

理数系人材の育成に今から取り組まなければ、国力の低下に繋がりかねない

 STEM教育の充実を図るべく、米マイクロソフトは世界的な人気ゲーム「Minecraft(マインクラフト)」を2014年11月にスウェーデンのMojangから買収した。Minecraftは仮想空間の中で、さまざまなブロックを組み立てて建造物や街を作って遊ぶゲームだが、プログラミングの学習にも発展的に利用できる。ゲームの教育的利用が進む海外では、すでに小中学校でMinecraftを使ったプログラミングの学習や課題解決型学習、協働学習の実践事例もある。小野田氏は、「プログラミングを学習する過程で学べるプロジェクト思考を初等教育から体験するためのツールとして、Minecraftは親和性が高い」と語る。

世界的な人気ゲーム「Minecraft(マインクラフト)」

教育機関向けのWindows10 Education エディションに注目!

 今後はさらに多くの教育機関でICTを活用した学びが広がる。マイクロソフトではドリル反復学習、アクティブ・ラーニング、アダプティブ・ラーニングなど、さまざまな学習にICTが活用できる環境を提供している。

未来のイノベーターに必要なスキルとトレーニング

 マイクロソフトの教育ICT分野において今後注目したいのは、2015年にリリースされたWindows 10 Educationの動向だ。
 米マイクロソフトはWindowsのOSエディションで初めて教育機関を対象にした Educationエディション (http://wincom.blob.core.windows.net/documents/Win10CompareTable_ja-jp.pdf)を発表した。同エディションでは、起動アプリを制限するAppLockerの機能や、再起動時にOSを元の状態に戻すことのできる統合書き込みフィルタなど、それぞれの教育機関に合ったWindows端末が構築しやすくなるのがメリットだ。日本の教育現場ではWindowsタブレットを選択する学校が多いことから、Windows10 Educationでカスタマイズされたタブレット端末を使って、Office 365 Educationといったクラウドを活用した家庭学習を実施する教育機関も出てくるだろう。

また、マイクロソフトは2016年に入ってからグローバル規模での教員向け無償研修を積極的に開催している。教員向けのグローバルコミュニティ「Microsoft Educator Network」 (https://www.microsoft.com/ja-jp/education/default.aspx)には、すでに100万人以上の教員が参加し、教育や学習活動についての議論や情報共有を行っている。小野田氏は「2016年に入ってからは、特に教員研修に力を入れている。日本マイクロソフトとしても国内におけるICT教育が加速するように後方支援を積極的に行っていきたい」と教育分野にかける同社の熱意を語る。

 時代の先を常に見続けているリーディングカンパニーの日本マイクロソフト。グローバルの教育動向を見つめながら、日本の教育現場も同時に見続ける。世界から遅れている日本の教育ICTの現場をさらに盛り上げていくには、同社のリーダーシップが不可欠だといえる。

(DIS 教育ICT(初等・中等教育)ソリューション サイト 2016年3月15日掲載記事)

(iDATEN(韋駄天)へのログインが必要です。)

教育ICT情報の記事