各メーカーが提案するAI PCの特長と強みをご紹介

ノークリサーチは、2025年10月15日のWindows 10サポート終了(EOS)を前に、同年8月22~25日にIT管理・運用に携わるビジネスパーソンを対象とした調査を実施した。今回はその調査を基に、企業におけるWindows10から11への移行状況とAI PCの活用意向について、ノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高氏に話を聞いた。

Windows 10は一定数残存する見込み

ノークリサーチが実施した調査によれば、「Windows 10はEOS後も残存する」と回答した企業は31.3%に達し、サポート終了後も一定規模でWindows 10環境が残る見込みが示された。なぜ3割超の企業でWindows 10搭載PCが残存すると見込まれるのか。岩上氏は次のように説明する。「一人情シスの増加をはじめとして、企業のIT管理や運用を担う担当者が不足していることが大きな要因です。人手不足によって、Windows 11への移行作業がEOSまでに間に合わなかったのです。現在は3割を大幅に下回っていると考えられますが、一定数のWindows 10の残存が見込まれます」 販売店としては、なお残るWindows 10搭載PCの移行需要を確実に捉えるため、ユーザー企業にとって前向きな材料をどれだけ具体的に提示できるかが鍵となる。そこで注目を集めているのが、将来のAI利用を見据えたAI PCだ。

ノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高 氏

ノークリサーチ
シニアアナリスト
岩上由高 氏

このとき重要なのは、「Windows 11導入の利点が分からない」と感じている企業ほど、AI PCの価値を理解しやすいという点だ。岩上氏は次のように指摘する。「セキュリティ対策を理由にすることでPC 更新の決裁が通る企業では、それ以上の検討が行われないため、AI PCならではの価値に触れる機会がほとんどありません。一方で、セキュリティ対策だけでは決裁の承認を渋られやすい企業では、意思決定のために多くの情報を収集する必要があります。その過程でAI PCの利点にも自然と触れるケースが増えるのです」

在宅・外出先での勤務利用に訴求する

AI PCは通常のPCより高価であるため、将来性だけの訴求では買い替え意向につながりにくい。そこでノークリサーチは、AI PCの購入判断に影響する要素を分析し、各項目を「有効」と考える企業が5割に達した場合の移行意思の高まりを推定している。調査によると、在宅勤務・モバイルワークでの利便性向上が42.4%、ペーパーレス化の促進が38.5%、セキュリティの向上が35.5%、PCの管理・運用負荷の軽減が34.4%、生成AIやAIエージェントの活用が32.6%という結果が示された。

AI PCという名称からは生成AI活用の訴求に意識が向きがちだが、実際には生成AI・AIエージェントの項目が最も低い結果となっている。岩上氏はその理由について「多くのユーザーが『AI』と聞いて真っ先に思い浮かべるのはChatGPTのようなクラウドサービスです。クラウドで動く以上、『PCの性能は関係ないのでは』『スマホで十分では』と考えるユーザーも少なくありません。そのため、NPU搭載といったスペック中心の説明だけではAI PCの必要性が伝わりにくいのです」と説明する。

こうした認識のズレを解消するには、「AI PCだからこそ提供できる業務現場に即した価値」を明確に提示することが不可欠だ。AIPCの本質は、クラウドではなくPC内部でAI処理を完結できる点にある。例えば在宅勤務やモバイルワークでは、自宅回線やフリーWi-Fiなど、必ずしも安全とはいえないネットワーク環境を利用せざるを得ない場面がある。そのため、機密性の高い契約書をクラウドのAIサービスにアップロードする過程で通信が盗み取られるリスクが発生する。加えて外部のAIサービスを利用する場合、アップロードした情報が学習データとして扱われる懸念も残る。しかしAIPCであれば、契約書の要約といったセンシティブな処理を端末内で完結でき、クラウドへデータを送信する必要がなくなる。その結果、情報漏えいリスクを大幅に抑えられるのだ。

バッテリー消費量を抑えられる点も魅力だ。Web会議の背景ぼかしといった映像処理をNPUが担うことで消費電力を低減できる。外回りの営業職などは外出時にACアダプターを持ち歩かなくても、複数の会議や業務をこなせるようになるのだ。

またPCの管理・運用負荷の軽減にもAI PCは有効だ。PCのスクリーンショットから過去の情報を検索できる「リコール」を活用することで、ユーザー自身が設定変更やトラブルの解決を行いやすくなる。「どの設定画面を変更したか分からなくなった」「アプリの設定を元に戻したいが手順を思い出せない」といった単純だが頻度の高い問い合わせが減り、情シス担当者はAI活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進といった本来注力すべき業務に集中できるようになるのだ。

さらに岩上氏は今後について「多くの生成AIサービスは、無償版の場合、入力したデータが学習に利用されるリスクがあります。そのため、本当は試してみたいのに、情報漏えいが怖くて使えないという企業は少なくありません。こうしたジレンマを解消するために、将来的には、ローカルで動作する小規模なモデルが配布されるようになると考えています。こうした小規模なモデルを試す環境としてAI PCは有効な選択肢となるでしょう」と語る。

Windows 10サポート終了に際して、新しいPC機器に買い替える割合
出所:2025年版Windows10から11への移行状況とAI PC活用意向に関する速報レポート増補版(ノークリサーチ)

AI PCの提案は小規模導入から始める

2025年末ごろからメモリー価格の高騰が続き、PCの販売価格も上昇傾向にある。こうした市場動向がAI PCの導入判断に与える影響について、岩上氏は次のように語る。「PCの価格が上がれば、高価なAI PCの購入を断念するケースは当然増えるでしょう。しかし、メモリー価格の高騰や供給不足を理由に『今買わないと損をする』とあおる手法は、結果としてユーザー企業に『高いAI PCではなく、予算を抑えるために安価な通常PCで済ませよう』という判断をさせてしまうリスクがあります」

岩上氏は参考にすべき動向として、エアコンのトップランナー制度の事例を挙げる。トップランナー制度とは、基準を設定する時点で最も省エネ性能に優れた製品を基礎として、将来の技術動向も踏まえた省エネ目標値を定め、メーカーにその達成を義務付けるものだ。従来、エアコン業界では高い省エネ性能を有する製品に、自動掃除といった付加機能を付けて価格を高く設定していた。つまり消費者から見た場合、省エネ性能の高い製品は余計な機能が付いた高価格製品となっていたわけだ。2027年4月にはこの制度によって省エネ基準が改定されるため、消費者は否応なく高価格製品を買わざるを得なくなる。これを受けて、「安価なエアコンを買うならば2026年のうちに」といった駆け込み購入を促す動きがある一方、「省エネ基準は満たすが、機能を抑えた製品が新たに出るのでは」という観測から購入を控える動きも出てきている。「こうした流れは、現在のAI PC市場にも通じる面があります。AI PCは通常のPCより価格が高くなる傾向があるため、メモリー価格の高騰を理由に購入を急がせると、エアコンの買い控えと同じことが起きる可能性があります。ユーザーが『不要な高機能を押し付けられている』と感じてしまえば、AI PCの普及が鈍化することも考えられます」(岩上氏)

最後に岩上氏は、今後のAI PC提案に向けて販売店に次のようなメッセージを送った。「高価なAI PCを全社一斉に導入してもらうのは現実的ではありません。まずは企業に残っているWindows 10搭載PCの更新分として、1~2台のAI PCを試験的に導入してもらいます。そのAI PCをモバイルワークやサポート工数の多い従業員といった、導入効果が高いと考えられる従業員に割り当ててもらいます。
そしてAI PCの効果を早期に実証してもらい、最終的には全社展開につなげてもらうのです」