ITネットワークは、現代社会において不可欠なインフラの一つであり、その重要性はますます高まっている。特に昨今では、デジタル化の進展やIoT、クラウドサービスの普及に伴うネットワークの高速化、大容量化、セキュリティ強化が求められている。また新型コロナウイルス感染症の拡大や自然災害など不測の事態も発生する中、ビジネス継続においてはネットワーク環境の整備や運用管理が重要となる。本記事では「国内企業向けのネットワーク機器市場」を踏まえて、ネットワーク機器の市場動向を追いつつ販売提案につなげよう。
企業向けのネットワーク機器市場は比較的成長
						
						
							ネットワーク機器の提案に当たり昨今の市場動向はどうなっているか、IDC Japanの国内企業向けのネットワーク機器市場からその様相を見ていきたい。
IDC Japanの調査によると、データセンター向けイーサネットスイッチを含む企業向けイーサネットスイッチ市場の2024~2029年の年平均成長率は2.4%、企業向け無線LAN機器市場の同年平均成長率は0.4%と予測している。一方で、企業向けルーター市場の同年平均成長率はマイナス1.3%の予測だ。同調査では、無線LAN、イーサネットスイッチ、ルーターを対象として分類している。IDCJapan Infrastructure & Devices のシニアリサーチディレクターの草野賢一氏はネットワーク機器の市場の変遷を次のように語る。「ここ10年ほどの企業向けのネットワーク機器市場の傾向としては、無線LANが企業のネットワークアクセスの主流になったと認識しています。その後新型コロナウイルス感染症拡大を経て、多くのデスクトップPCがノートPCにリプレースされ、同時期にフリーアドレスの浸透などオフィスの働き方が変化する中で無線LANはより導入が促進されました。こうした変遷の中で、無線LANが新たな使い方や需要を掘り起こす形で成長のドライバーとなり、近年の企業向けのネットワーク機器市場は比較的活発化した結果となりました」
成長市場としては無線LANが一番顕著に成長したが、データセンター向けのイーサネットスイッチも増加しており、市場成長に寄与したという。「近年の通信技術のトレンドを見てみると、Wi-Fi 6、Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7という高速規格が登場し、高速化が非常に顕著になっています。そうした流れの中で、イーサネットスイッチも、通信速度が2.5Gbpsもしくは5Gbpsの『マルチギガビットイーサネット』の対応などにより高速になっています。上記を踏まえ、イーサネットスイッチを無線LANのリプレースに合わせて更新、更改しようという動きもあることから近年の市場のけん引役の一つになっていると考えています」(草野氏)
							
							
							
						
						
						
					
ネットワーク機器の運用管理をサポートしよう
						
						
						
							2024年の国内企業向けネットワーク機器市場を振り返ると、供給に関して不安定な社会情勢の中で増加傾向となっている。IDCJapanの調査発表では、「2023年の見通しに対して過剰在庫に対する懸念があった」と記述している。要因の一つに半導体不足がある。半導体不足は、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大、リモート需要などの影響によりハードウェアメーカーで相次いだ。PCやモバイル機器などと同様にネットワーク機器も思うように供給できない状況が見られ、その際無線LANやイーサネットスイッチ、企業向けのルーターの在庫状況が半導体の供給に左右されていた。こうした状況の反動への懸念のため2023年はやや需要が低いと予測していたが、IDC Japanが2024年に発表した国内企業向けネットワーク機器市場予測によると、2023年の同市場は高い成長を続けた。新型コロナウイルス感染症拡大以降の課題であった半導体不足は、2024年にはおおむね解消されていたという。
それでは、昨今の中堅中小企業のインフラにおいてはどのような課題が考えられるだろうか?
「中堅中小企業のビジネス継続を考える上での大きな課題は、ネットワークの運用管理だと言えます。企業規模やネットワーク機器に限らないですが、理由としてはIT人材不足が挙げられます。特に中堅中小企業の場合、これまでも専任のIT担当者やネットワーク専任者を設けることが難しい状況が見られました。そうした課題に対し、ネットワーク機器単体ではなく、運用管理のソフトウェアやサポートサービスも合わせて提案し、ネットワークの専門家ではない現場の社員でも容易に運用管理できるように提案することが重要だと考えます。無線LANは有線LANと比べて問題が起きやすかったり、課題解決が困難だったりする側面もあります。無線LANを中心に使ったネットワークが拡大する中では、安定した通信も求められるので、今後そういった運用管理を含めた提案は不可欠であり、顧客のニーズや条件に合わせて訴求していくことが重要です」と草野氏は述べる。
							
							
							
						
						
					
						
						
							国内企業向けネットワーク機器市場 支出額予測、2024~2029年
出所:IDC Japan
							
							
							
						
						
						
					
						
					※本市場は企業向けルーター、企業向けイーサネットスイッチ、企業向け無線LAN機器の合計値となる。
										
									IDC Japan
Infrastructure & Devices
シニアリサーチディレクター
草野賢一 氏
アップグレードや追加機能で継続的なビジネスを
草野氏は、企業向けのネットワーク機器市場の今後の将来展望について次のように語る。「多くの企業で無線LAN環境を設置している中ではハードウェアのネットワーク機器の新規需要が出にくく、従来のように高い成長を続けることは難しいと思っています。そのため、従来と比較すると成長率は鈍化するのではないかと予測しています。一方で、それほど無線LANの活用が広がっていることから、引き続きどこかのタイミングでリプレースしたり、追加やアップグレードしたりといった継続的なビジネスの需要は生まれると予測しています。理由は、無線LANの特性にあります。例えば従来の有線LANは、設置後は安定して通信接続できるケースが多かったため、リプレースやアップグレードなどが意識されることは多くありませんでした。しかし、無線LANの場合は無線であるという特性上、さまざまな環境要因が通信接続に影響を及ぼします。そのため、『○○を導入したけど、ネットワーク環境や管理面がイマイチだったな』『もう少し通信速度を向上したい』といった要望が出てくる可能性があります。そうすると、機器刷新のタイミングで違う製品を検討したり、社内の条件に合わせて製品を変更したりなど、比較的運用を見直す機会がある製品だと思います」
無線LANの特性を踏まえ、草野氏は最後にこう提案する。「そこで販売店さまが企業の要件や状況に合った製品を提案すると、また新しい商売の機会が広がっていくと考えます。また、昨今はWeb会議が企業内のトラフィックを増大させる要因となっています。例えば社内でWeb会議を頻繁に行う場合、映像や音声品質の維持はネットワーク機器の通信機能の高速化で対応できるので、リプレースの一つの提案シナリオとして挙げられるでしょう」